野口修一氏設計『蓮田の家』内覧会に参加して思うこと

2015年6月20日(土)、梅雨の合間の強い夏の日差しを受けて、埼玉県の蓮田に出来上がった建築家の住宅を拝見させていただきました。

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写真の俳優みたいな男性が今回のお家を設計された野口修一さんです。

野口さんは千葉で設計事務所を開かれており、個人的にも大変親しくさせていただいています。

彼を一言で言い表すなら「情熱の男」、住宅建築への飽くなき探求を続ける熱血漢です。

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この日は、スタジオ・スペース・クラフトの福島さん、遠山さんご夫妻と彼らの事務所のスタッフの女の子と一緒に蓮田駅で待ち合わせをして、内覧会に伺うことにしました。

まずは腹ごしらえ、蓮田駅すぐ側の『ひのでや』で蛤ラーメンをいただいた後、バスに揺られること15分、目的地に到着です。

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広大に畑が広がるその中に『蓮田の家』はありました。

この家は玄関を共有する二世帯住宅、玄関は敷地北側にあり、東側の平屋がご両親の、西側の二階建て部分が子供夫婦ご家族の住まいになっています。

黒い艶無しのガルバリウム鋼板小波板の外壁に、木製の玄関扉がコントラストを強調してよく似合います。

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外壁の出隅の端部は、鋼板の曲げ加工です。安易に既成の役ものを使用しないところにも設計のこだわりが感じられます。

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玄関、正面の柿渋の和紙の壁が自然素材の風合いをよく表しています。フローリングは杉の無垢材です。野口さんは、全国各地の杉の特徴を勉強されており、適所に応じた杉材を選定し、使用しています。

地窓の明り取りが心地いい明るさをもたらします。

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壁紙は土佐和紙です。金額的にも扱いやすいとのことですが、和紙の透け、手仕事の風合いが部屋を柔らかく包み込みます。和紙の継は重ね合わせており、これも和紙特有の仕様感といえます。

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若夫婦の住宅部分のリビング開口、2300程度の天井高いっぱいまで開かれた木製建具は全て壁部戸袋に引き込まれて外部とつながります。

このコーナー上部に空けられた一坪程度の吹き抜けが、2階までその気積を広げ、伸びやかな印象を与えます。

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2階寝室からの吹き抜け見下ろし。左手奥は階段室のスタディスペース。

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2階ルーフバルコニーから1階の縁側を見下ろします。木柱、薄く仕上げられた開口部の庇ごしの風景は絵になります。

ここからはディティールを紹介していきます。

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木製建具の端部納まり。

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スチールで造作されたルーフバルコニーのドレーン。クラフトマン的なこだわりを感じます。

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木製建具上部の庇の通気処理。パンチングメタルを使用し、スッキリとした印象をあたえます。

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ウッドデッキと支持柱の処理。普段気付かない部分までデザインを怠らない姿勢は、同時に最も水にさらされ腐りやすい部分でもあることから、これを極力回避するために設計されてもいます。

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美しい木製造作キッチン。

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トイレの腰壁は、衛生面を考慮して和紙を貼り分けています。

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階段手摺のデザイン。端部にまで気を配った美しいものです。

野口さんは、「普通の家」という言葉をよく使われます。

僕にはこの言葉が大変重く感じられます。

建築家は、一方で構造的に、設備に、素材に、ディティールに、間取りに、形態に対して飽くなきチャレンジをします。それが未来を創造する基礎を築くかもしれない。しかし時にそれは、「意匠」という檻に囚われた囚人のように、狭義の建築の内部での自意識の表出でしかないかもしれないのです。

構造も普通、使用する材料も工法も普通、間取りも普通という野口さんが見ているものは、しかし、どこまでも素材を吟味し、納まりを検討し、クラフトワークを徹底しながら、同時に施主に寄り添う姿勢です。それは確かに、住宅の一般的解釈としての「普通」からジャンプして、一点ものの「建築」であることに間違いないのです。

こうした住宅を創造すること、設計に対する情熱を持ち続け、探求を怠らず、検討を重ね、時間をかけなければ到達しない地平が広がっていて、野口さんの設計とは、そうしたたぐいのものであるのは間違いないことだと思うのです。

素晴らしい住宅を拝見させていただけたことに感謝申し上げます。野口さんの増々のご活躍をお祈りします。そしてまた、僕自身が「建築」に対峙する素晴らしさ、「建築」を創造する素晴らしさを再確認出来たことに喜びを覚えずにいられません。

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