2016年6月22日、曇りときどき雨。薄く低い雲に覆われたその日は、深谷の住宅で、お施主さんを交えての仕上げ材の決定が行なわれました。
具体的には、玄関扉、軒天の塗装色決めと床の一部に使われる長尺シート、壁紙を選定することが打ち合せの内容でした。
僕は、予定時間より少し早く現場入りし、工事の進捗状況を確認していきます。外壁の出来具合、階段や手摺の確認など。事前に工務店と打合せを重ねてきた結果として、非常に精度の高い施工がなされていました。
外壁は、ケイカル板を下地にガルバリウム鋼板の折板をビス止めしたものです。色はお施主さんと一緒に決めました。
施工精度が高いので、外壁材として工業製品化されている金属サイディングに見えるかもしれませんが、僕らはほとんどそうした商品を使用しません。理由は、端部の納まりが既製商品ではうまくいかないからです。いや、性能的に確保する役ものはあるのですが、これは大げさな意匠になってしまって野暮ったいんですね。外壁の出隅もそうですし、笠木もそう。
それって見えがかりの問題の話でしょうと言われるかもしれませんが、これは僕らにとっては非常に重要なことです。僕ら意匠設計者は、お家の構造、性能、生活の快適性を確保することを目的にしていますが、加えて建築の意匠性や空間、住まい方についてお施主さんの要望を満たすことにも重きを置いています。つまりそうしたことこそが、建築家と呼ばれる職種が持ち、武器とする付加価値の部分なんですね。
既製品や出来合いの商品を多用すれば、お施主さんにも情報としてお伝えしやすいし、なにより現場と検討を重ねたり、描く設計図の量もぐんと減らせるわけですが、そうしない。そうしたら、僕たちが施主要望に応えることが出来ないと考えているからです。
内部に目を向けると、2×10材を使用した木製の階段とスチールの手摺が出来ていました。
このお家は、はじめお施主さんからモダンにしてほしいとご依頼を受けたものです。今まで僕らが設計してきた建築も、あえてカテゴライズするのであれば、モダンになるかもしれません。僕らに限らず現代住宅は、工業材料を多用します。工業製品や材料なしで建築はほとんど建てられませんし、必要な部分についてそうした製品や材料を使用することは、建築の性能を確保する上でも大切なことでもあります。
ただ、床フローリングが紫外線による劣化や傷から守るためとはいえ、仕上げに分厚いウレタンを塗っていたり、制作精度が高いゆえに完全に寸法に狂いのない正方形のタイルであったりと、プラスチックの箱をつくるようなのは、なんだか違うだろうと思っているんですね。
ですからこの住宅を僕らは、工業材料を使い、これを職人さんの手練の技で高い精度のエッジの効いたものに仕上げながら、木の手触りや金属の本質的な荒々しさ、タイルの一枚の表情を対比的に用いることを目指しています。つまり精緻なデザインとブルータル(粗野)な素材感を同居させたいと思って設計しました。そして、それらをまとめるのが空間のデザインになります。
この階段のささらは同一平面上で折れ曲がっていて、これに直線的な手摺が折れ曲がりの上下で一方では階段の内側に、他方で外側に取り付くように設計していて、面白いものが出来ました。一見3階建てに見えますが、建物の南と北で天井高を互い違いにしただけの2階建てなんです。そうした単純な操作でありながらも不思議な高さ方向のコントロールこそ空間設計なんですが、空間や僕らが重視している住まい方をプログラムとして昇華させることについては、別の機会に書ければと思います。
次回はマテリアル、つまりもののもつ材質感について、少しお話しできればと思っています。