埼玉県深谷の住宅14 -タイトルと設計主旨-

埼玉県深谷の住宅も完成を迎え、同計画の工事記録としてのブログは、今回で一旦終わりになります。

新しいお家をお施主さんがどのように住まわれるのか、それは僕たち設計者にとっても気になる部分でもあります。また新築住宅は1年住まわれてみて、ゆっくりと住まい手の身体に染み込むものでもありますので、じっくりと時間をかけて新しいお家がお施主さんの「もの」になっていく、お施主さんの色に染まるといいなあと思っております。

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さて、いつも僕たちは新築住宅に名前をつけているんですが、埼玉県深谷市の住宅のタイトルも決定しました。

名前を「グロット(Grotto)」と言います。

英語で「人工的につくられた小さな洞窟」の意味です。

イタリア語ではグロッタ。グロッタですと、建築的には宗教色を帯びた意味が強くなります。グロテスクの語源でもあるとおり、有機的で装飾に彩られた、例えば宮殿の敷地の片隅にひっそりとつくられた祈りの場を意味したりもします。

この住宅では、そのような宗教的意味合いや、有機的なかたちや空間は意図されていませんので、純粋に「人工的につくられた小さな洞窟」としました。

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ポートフォリオ用に書いた設計主旨を以下に記すことにします。

「敷地は、埼玉県深谷市の今も村落共同体が成立する地域に位置する。施主の実家敷地の南側の畑を農地転用して、新築の一戸建てが計画された。

地域コミュニティが強く機能する場所において、施主夫婦は今後地域住民との関係を密にして生活の基盤をつくることになる。同時に夫婦のプライベートな生活領域を住宅内部で強く維持することが要望されたため、この住宅は、外部に対して閉じている。

内部においては、チューブが中庭からリビングを見通し、そこから立体的に2階の書斎、予備室、主寝室へと流動的につながっていく。床面積は、30坪とさほど大きくないものの、天井の高さを室ごとにコントロールしながら隣室と関係を結び、気積の大きさが建築の奥行きを確保する。

開口は、周到に計画しており、眺望に関しては、1階から中庭を、書斎から空を、主寝室から周辺地域を見渡すようにしている。採光の点からは、直射日光よりも一日の光の移ろいと安定した柔らかい光を届けることを意図した。こうした設計上の意図は、建築の内部性、その身体的包摂を強化している。

3階建てのようなスキップしたフロア構成や離れのような和室、階段途中にある予備室、空間に剥き出しで投げ出されたかのような書斎というように、各室には施主の遊び心が反映されている。それは、居場所の多様性を内部ヴォリュームにコンパクトに折りたたんで存在するものである。」

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この住宅を設計してみて、地域、集落と関係を結ぶ身体、その延長としての住宅のあり方と、個人的身体を包む皮膜としての住宅のあり方を同時存在させることについて、事後的ではありますが、そのようなことを今現在考えているところです。もう少し僕自身咀嚼して、そうしたことの意味とそれをどのように建築化したのかについて、分かりたいと思っています。

いつか、そうしたことについて何かしら書くことが出来るでしょうか。

施主ご夫妻、まだ引っ越したばかりでお家に身体が慣れない部分もあるかとも思います。また、設計上僕たちが至らなかった部分もあり、そうしたことについてはすみませんでした。お施主さんには、「これで(僕たちとの関係が)終わりじゃないですよね」っておっしゃっていただきました。たいへん嬉しいお言葉です。このお家がお施主さんの生活の一部となった頃、お施主さんのお家として、またお邪魔させてください。この場をお借りして、お礼申し上げます。

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