千葉M邸新築工事現場 -2020年5月末日時点進捗-

こんにちは。

千葉M邸の工事も前回ご紹介してから1ヶ月が経過しました。進捗状況のご報告とともに、計画について少しお話をしたいと思います。

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千葉M邸は、ご夫婦と、小学生と保育園に通う息子さん二人の4人家族のためのお家です。今回、新たに土地を購入され、新築住宅を建てることになりました。

当初、ハウスメーカーをいくらか巡ってお見積もりまで取られたそうですが、ご要望を叶えるように設計すると45〜50坪の延べ床面積になってしまい、ご予算も大幅にオーバーしてしまいました。そんな中で、僕の事務所にお声がけいただいて設計をスタートすることになったのですが、ご要望を可能な限り実現しながらプランの整理を行い、部屋の大きさをコントロールして計画に落とし込むことで、延べ床面積を37坪まで縮小することができました。建物の外観も箱型の総二階建てにすることで表面積を抑えています。結果、ハウスメーカーで建てるよりも1000万円以上の減額に成功し、ご予算の範囲内で建築を実現するに至りました。

僕の事務所で設計を行う場合、積水ハウスや住友林業の標準住宅と同等の施工費になることが多いのですが、計画の自由度ゆえの面積のコントロールが可能な点で、計画の実現可能性を高めていると思います。こうした、要望は叶えたいが金額を絞りたいといった場合に、ご要望を整理しながら規模を縮小することができるのも設計事務所の得意とする部分です。

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総二階のお家と申し上げましたが、1階と2階の境界に水平線を強調する軒を設けて、上部をガルバリウム鋼板の瓦棒葺き、下部を塗装にすることで、ワンボリュームの大きさを抑制し、切妻の箱が浮かんでいるような軽やかな印象を与えます。

ガルバリウム鋼板は、マットグレーを選択しています。最初は縦ハゼ葺きにしようと思っていましたが、最近は板金屋さんも数が少なくなるとともに高齢化が進み、昔ながらの折板をかしめる施工ではなくて既製品の嵌合式(かんごうしき)というのが主流になってしまいました。何度か僕も嵌合式を採用したのですが、職人さんの手によるシャープさや手の痕跡を望めないのと、端部の処理が画一的であるので、今回もどうしようかなと悩んでいました。そんな中、板金屋さんの方で「瓦棒葺きならやるよ」とおっしゃってくれたので、壁量の大きな面にアクセントとして面白いなとも思い、これをお願いすることにしました。

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これは、玄関の写真です。総二階と申し上げましたが、確かに外観はワンボリュームなのですが、内部は外壁に沿って吹き抜けがあり、内部に入れ子のボリュームを配置しています。男の子二人がとても元気なのでご近所にご迷惑をかけないかしらと建主さんご夫婦は心配されていて、それならば外壁から切り離して建物の真ん中を子供部屋にしましょうと話がまとまりました。写真の左の壁が外壁面、右の構造用合板の箱の2階が子供部屋になっています。

この構造用合板の壁は、これで仕上げになります。大工さんにやすりをかけていただき印字を消して、ささくれをとってもらいました。これにウレタンクリアを塗装屋さんに塗ってもらって完成になります。一般的には、構造用合板の上に石膏ボードを張って仕上げにすることが多いと思いますが、減額のアイディアであるとともに、入れ子の箱を強調するための仕掛けでもあります。大工さんには、釘ピッチも気を使っていただき、粗野な風合いを残しながらも美しい仕上げになったと思います。

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玄関から1階リビングダイニングを見通した写真になります。天井高は3.4m。天井は、写真のままで仕上げにしています。配線が残っていますが、後で大工さんが二重に板を張って隠してくれる予定です。

写真左手は、対面式のキッチンでシステムキッチンが入ります。僕の設計では、キッチンを家具屋さんに作ってもらうことも多いのですが、最近はシステムキッチンを望まれる建主さんも増えてきました。こうした職人さんの手の跡がダイレクトに表現されるお家では、既製品の什器は不釣り合いになることもあるのですが、写真のように腰壁を立ててしまうとキッチンも見えませんので、最近はこのような方法を用いることがあります。

写真右手は、南側の庭に面した開口部ですが、ここにもワンクッション廊下で仕切りを入れています。これは、洗濯物の室内干しのためのスペースで、別途部屋をつくる余裕はないが、来客や日々の生活の中で目に触れないような配慮を、という建主さんのご要望にお応えしたものです。ここは、引き戸で仕切れるような工夫をしています。

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この写真は、キッチンからリビングを抜けて奥の階段と和室を見たものです。

このお家は、家の真ん中に入れ子状の箱があり、その内部が1階はリビング、2階は子供部屋となっているのですが、箱には四方に開口が設けられていて、隣接する質の異なる空間とつながっていくように計画しています。こうした工夫は、限られたスペースに視覚的にも物理的にも広がりを持たせると同時に建築の部分の体験を通じて全体を統合していくような「シークエンスの編集」を意図してもいます。同じ面積であっても、横や縦に抜けがあると空間の気積が大きくなり、空気が対流して伸びやかな印象を与えます。またこれは僕の設計ではよくやることなんですが、色々なルートで部屋に接続するように、空間がループするように、一方通行や行き止まりを極力減らすようにプランを作成しています。こうしたことは、ちょっとした工夫であり、一見して無駄な計画のようにも思うのですが、動線に操作されているような感覚を低減し、自由な行動の選択を促してもくれます。家の中で様々な居場所があるとともに、色々なつながり方を許容しているというのも大切な要素であると考えています。

少し長くなってしまいましたので、この続きは次回に。この住宅、夏に完成の予定で、これからも多くの職種の職人さんが入られますから、進捗を見守りながら、レポートを継続していく予定でおります。