岡村ミユさんの初めての個展へ小田原まで

こんにちは。

2021年5月22日(土)から24日(月)までの三日間、神奈川県の小田原駅から徒歩7分の場所にある旧三福不動産で岡村ミユさんの絵画の個展が開催されました。岡村さんとは、インスタグラムで知り合ってもう2年以上、3年ぐらいになるでしょうか。岡村さんは、当時からずっと鉛筆やダーマトグラフ、チャコールペンシルで描かれた絵画をインスタグラムにpostされていて、僕もその絵をとても魅力的に感じていたのですが、ふとしたことからお互いにコメントし合うようになり、岡村さんの絵のことや哲学や思想的背景なども伺って、より彼女の絵に引き込まれていきました。

岡村さんは、小田原でアートディレクションのようなお仕事をされていて、絵画はライフワークのような位置づけになるでしょうか。彼女は「お守りのようなもの」とおっしゃっていましたが、少なからず生きることの軸をなしている存在が絵画なんだと思います。

岡村さんとは、彼女の中学校の同級生で京都でものづくりをされているpokopokocharuさんとお二人で、神奈川県小田原市で開催されたクラフト展に出店されていた際に初めてお会いしました。2019年の冬の日、風の冷たい吹きさらしの公園の一角でしたが、この時岡村さんは絵葉書を販売されて、直筆の絵を拝見することが叶いませんでした。その後なかなかお会いする機会もなかったのですが、今回初めての個展を開催されるということをお聞きし、「これは必ず伺わなくては」と思い、5月22日(土)の個展初日に車を走らせて行ってきました。

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事前に岡村さんから、会場のコロナ対策をしっかりされての開催をお聞きしていましたし、まん延防止等重点措置が発令されている中での県をまたぐ移動ということもあり、今回はどこにも寄り道せずに車で家と会場を行き来する「どこでもドア作戦」を決行することにしました。車移動は、終始スムーズで、ちょうど2時間で小田原まで行くことができました。途中、富士山を正面に臨んだり、西湘バイパスを通って太平洋を一望ながらの楽しいドライブとなりました。

会場の旧三福不動産は、古い木造のノスタルジックな建物で、特にアートギャラリーに特化しているわけではなく、ヨガ教室や、物販なども行われる多目的なイベントスペースとのことでした。午前10時の開場時間を少し過ぎての到着、岡村さんにお会いするのも久しぶりですし、岡村さんの直筆の絵画を拝めるということでしたが、まずは高揚した気持ちを落ち着けて冷静を装って顔を出しました。中では岡村さんお一人で作業をされていましたが、すぐに僕と気づいてくださり、まずは久しぶりにお会いできたことを互いに喜びました。

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岡村さんの作品は、黒い額に入れられた作品が数点あり、この他大きなテーブルの上に、大小様々の絵がクリアファイルに挟まれて置かれていました。壁沿いの棚には、絵を印刷した絵葉書もたくさん置かれていて、想像していたよりずっと小ぶりの作品でしたが、会場を所狭しと埋め尽くしていました。インスタグラムで拝見していると、絵画の大きさまで分かりませんでしたので、前々からどのくらいの大きさのものなんだろうと想像してもいました。岡村さんに絵の大きさについてお聞きしたところ、どんな時にも絵を描けるように、また描いた絵を持ち歩けるようにということで、鞄に入る大きさなのだそうです。岡村さんがご自身の絵を「お守り」とおっしゃるように、これらは全て彼女の分身であり、何かを削られながらかもしれないし、吐き出すようにかもしれませんが、何かと交換して生み出される絵なんだなと納得しました。

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これらの絵は、全て鉛筆やダーマトグラフで描かれたモノクロームの線画ですが、一つ一つ作画に特徴があり、それは感性に委ねられたものや実験的なものもあるのでしょうが、線の太さやタッチだけでなく、よく見るとエッジの立たせ方や滲み、黒のレイヤードなど多彩に表現されていました。

削ぎ落とされた線は、その線でなくてはならないという無限の中での選択された一筆であり、それが紙面構成、コンポジションのようなものを無視して一見不格好に描かれるため、それがなんとも言えない愛おしさや温かみを表現してもいました。

岡村さんは、哲学や社会学、民俗学や、民藝などにもご興味があり、また絵のモチーフにご自身の幼い頃の写真などを使われていたりするのですが、僕は、彼女の絵に思想的な背景や時間の厚みのようなものが少なからず定着されていると思っています。もちろん、絵は絵以上のものではなく、描かれているものは、その多くが彼女の生活圏にある日常のありふれた風景なのですが、描かれる絵の眼差しの深さ、線を構成する画材の粒子の定着に見る「そうでしかない」ものの痕跡が絵に重厚感を与えています。

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僕はアートコレクターではありませんが、それでも気に入った作品があり、お譲りいただきたいなあと思うことが時々あります。お気に入りの絵画など、人によって好き好きがあると思いますが、素人ながら僕の見立ては以下の通りです。

まず、言語的な体系におけるコンセプトの構築に頼っていない作品であること。次に絵画のテクニカルな部分を目的化した作品でないこと。最後に商業的な戦略やコンテンポラリーなファッション性を追求したものでないことです。これは、表現として定着されている絵画そのものを観るということにできるだけ徹するということであるとともに、そこから垣間見える「絵画を絵画たらしめる」ものとして作品を規範化している奥行きや広がりを重視するということでもあります。

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岡村さんは、大正時代に流行した民藝運動にも想いを馳せていて、それは日常の道具に用の美を見出すというものですが、飾らない日常の中で削ぎ落とされた機能美に見る「ものの本質」を探究されていることもご自身の絵から感じ取ることができました。道具は、100年大切に使い込まれると魂を持つと言われるように、ひと、もの、ことへの深い愛情が岡村さんの絵にも定着されて、神様が宿るようでもあります。それは、もしかしたら「祈り」に近いのではないかと、僕は思うのです。

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今回僕は、額装された二枚の絵をお譲りいただきました。この個展では、額装や会場の構成、価格設定など何から何まで岡村さんお一人でご対応されたとのことで、非常に大変だったと思います。しかし、思いの詰まった手作りの個展開催は、やはり体温を感じる温かなものでした。

岡村さんは、今後も継続して個展開催などしていきたいとおっしゃっていましたが、僕も岡村さんの絵をもっと多くの人に知っていただきたいと思う反面、アートの市場に消費されたくないな、などと勝手な想いを重ねながら、今後も微力ながら応援していきたいと思っています。

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お譲りいただいた二枚の絵が僕の手元に届くのはもう少し先になりますが、それらはきっと僕にとってもお守りのようなものとなるのだろうと思います。魂がものに宿り、ひとの手を通じて紡がれていくことに、穏やかではありますがかけがえのない生の喜びを感じています。

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