こんにちは。
8月の終わりになってぐずついたお天気が続いています。今までTシャツ1枚で過ごしていましたが、流石に今週は長袖のYシャツを着て仕事をしています。
現在僕は、千葉の幕張新都心のマンションリノベーション の設計が佳境を迎えており、これをまとめる作業に専念しています。マンションといっても床面積が100m2以上あるため結構なボリュームです。また、建主の奥様が美大出身で、今回の設計で意匠部分の多くを決められているため、実質僕と奥様のコラボレーションのような設計になっていて、これを取りまとめるのに通常の倍ぐらい時間をかけているんですね。もちろん手間はかかりますが、非常に面白い経験をしています。多くの意匠設計者の方は、自身が設計監理されたものを作品として世に出したいと思っていますから、建主さんのご要望をお聞きしても設計を委ねるということはなかなかないのではないでしょうか。もともと僕もそのように考えていた設計者ではありますが、40代も半ばを過ぎてから、もっと自由であってもいいと思うようになりました。以前設計した『ループ&ループ2』という戸建住宅も建主さんのご要望を全て叶えることをコンセプトにしました。今回、建主の奥様は非常にセンスがよく、グラフィカルな視点やものへのこだわりなど、僕だったら選択しない解答を引き出してくれるので、僕自身学びの多い設計になっています。そうした自分にない感性を受け入れながら設計をまとめていくことも、いつもと違った設計の醍醐味を感じることができます。この計画については、現場が動き出したらまたレポートしたいと思っています。
さて、今回のブログは、一級建築士事務所なかおデザイン室の中尾雄介さんが設計監理された『垂木の平家』について、僕が撮影したスナップ写真をご紹介いたします。
『垂木の平家』の建築写真については、前回のブログでご紹介しました。これは僕自身の私見であり、作品の一つの解釈でしかありませんが、僕なりにこの作品についての空間分析を文章でも書いております。
建築写真は、建築自体の造形、空間を主体とした切り取り方をするのが一般的だと思います。それに比べてスナップ写真は、建築が切り取る空気感を取り上げることが多いように思います。僕は、そのどちらも建築を説明するのに不可欠と考えているため、いつも撮影ではスナップ写真を撮るようにしています。
『垂木の平家』の撮影時には、建主さんが既に半年お住まいになられていましたので、伺った際には、家具から小物に至るまで、生活の雰囲気を十分に満たしていました。こちらのお家に置かれていたものは、どれも素敵なものばかりでした。建主さんにお聞きしたところ、ものを捨てられない性分でそれだからこそずっと大切にできるもの、愛情を注げるものを厳選して揃えていらっしゃるとのことでした。家具など、建主さんが学生の頃から持たれているものもあるそうです。こうした考え方はとても良いなあと僕は納得しましたし、僕も常日頃そうありたいと思ってもいます。今現在僕は自分で設計した一軒家に住んでいますが、それはもともと僕の両親のために建てた家で、父が大病をしたのを機に同居した家なのでもう住んで10年近く経ちますが、いまだに自分の家という感覚がないんですね。ですから家のために何かを揃えるという気にもなれず、そうした点で自分の家に自分の好きなものを揃えて生活することに非常に憧れがあります。
『垂木の平家』の場合、新居に合わせて家具などを選ばれたわけではないので、建主さんのご趣味や感性でまとめられていますが、建築のイメージに引っ張られすぎていないチョイスというのがまた良いですね。意図してずらしたものではありませんが、デザインのセオリー通りに全てを統一するよりも、建築をイメージしながらも住まい手の感性の赴くままにものを揃えられるというのは素敵だなあと思ってしまいます。しかしこれはなかなか高度なテクニックを要しますね。常にアンテナを張り、ものを見る目を養っておかないと何が良いのかわかりませんし、何を好きなのか、また空間に対してどういったものが相性の良いものかを理解できないのですから。感性を磨くというのは一朝一夕にできることではありませんが、知識を入れ目を養い、トライアンドエラーを繰り返しながら纏っていくもののように思います。それは、建築やものへのリスペクトであるとともに、自分自身を豊かにしてくれるものでもあるんですね。僕もそのようにありたいと、常日頃から思っています。
それでは、『垂木の平家』のスナップ写真をご覧いただければと思います。この家が纏う空気感、生活の断片が伝わるようでしたら幸に思います。