僕の事務所で設計監理した『幕張のマンションリノベーション2』が完成しました3 -マンションリノベーションの間取り計画の注意点-

こんにちは。

以前このブログで谷崎潤一郎『陰翳礼讃』について書きましたが、この本を勧めてくださったお友達がもう一冊ご紹介してくれたのが岡倉天心(岡倉覚三)著、村岡博訳『茶の本』です。1929年に書かれたもので、もう100年近く前の本になります。『茶の本』は、外国に茶の湯を紹介するために英文で書かれたもので、英題を『THE BOOK OF TEA』といいます。僕は本屋さんに寄るたびに同書を探していたのですが手に入れることができず、先日Amazonで購入しました。茶道は、一つの精神世界を確立している文化領域ですが、建築においては茶室という独自の様式が成立しています。有名なものは、千利休の「待庵」でしょうか。この建築的形式美について、長い間僕も興味はあったのですが、建築を学ぶ上で特に茶室に触れる必要もなかったため、深く学ぶこともありませんでした。今回、お友達が本を紹介くださったことをきっかけにして、少し茶室や茶道について知識を得ようかなと思っています。茶室自体の設計というよりも、建築を設計する上で何かしらの肥やしになるのではないかと期待してもいますので、これから少しずつ読み進めていきたいと思っています。

さて、僕の事務所で設計監理した『幕張のマンションリノベーション2』について過去2回のブログで紹介をしました。初回は概要、2回目はキッチンについて書きましたが、今回は3回目、マンションリノベーションを計画するにあたっての間取りの注意点について書きたいと思います。マンションの住戸改修では、設計段階で気をつけないといけないことがいくつかありますので、これからマンションのリノベーションをお考えの方は、ご参考にしていただければと思います。

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マンション、特に鉄筋コンクリート造の建築の場合は、構造に関わる柱や梁、スラブ、壁で住戸を囲っている場合が多いため、住戸内の各室を仕切っている床壁天井を概ね取り払うことが可能です。つまり住戸内であれば新規に間取りをいかようにも計画することができます。しかし、マンションでは、給排水、電気設備、防災設備についてそのルートや位置が決まっているため、これらについては間取りを計画する際に注意が必要になります。

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まず給排水設備についてですが、マンションではPS(パイプシャフト)という各住戸を縦に通る給排水配管の通り道が存在します。この管に住戸内でトイレや浴室、洗面所、洗濯機、キッチンの配管を繋ぐ必要があるのですが、PSの位置が決まっているとともに繋ぎ込みの口の位置も動かせないため、水廻りについてほとんど既存位置を変更できないとお考えください。稀に床下に配管スペースが大きく確保されていて、管の振り回しが効く場合があります。しかし多くのマンションでは土地に法規制の範囲で容積いっぱいに住戸を入れ込むために、床下や天井裏のスペースはタイトなことが多く、例えばトイレの位置というより便器の位置を動かせないと考えておく方が良いと思います。それでも給水は、管も細くフレキシブルに取り回すことができるため計画の自由度は高いのですが、排水管については、事前の位置確認とともに間取り計画での注意が必要になるとお考えください。

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給排水設備に比べて比較的自由度の高い計画が可能になるのが電気設備になります。コンセントや照明位置など新規に計画しやすいのが特徴です。しかし電気設備の計画でも、配線ルートを事前に確認しておくことをお勧めします。天井裏や床下など、1990年代以降のマンションであれば直に躯体に仕上げているということは少なく配線のルートが確保されていることがほとんどですが、住戸の屋外と屋内を仕切る壁など、屋内の有効面積を稼ぐために躯体壁に直に仕上げをしている場合があります。こうした壁ですと、新たにコンセントを壁につけたくても壁に直付けするか、仕上げ壁をふかす必要が出てきます。これについては、事前に建築図面を入手したり、現場の調査を行う必要があります。また、マンションでは、インターホンが設置してあるのがほとんどだと思いますが、こうした弱電設備は、防犯機能がついていたりしてビル側と連動していることがあります。こうした場合は、インターホンの位置を不用意に変更できませんので、やはり確認が必要になります。

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次に防災設備について。マンション住戸内、居室の各室やキッチンなどに熱感知器や煙感知器などの防災設備が天井や壁についています。大きなマンションなどではこうした防災設備はビル側と繋がっているため、一住戸の改修ということで勝手に取り外したり、位置を変更したりすることができません。間取り変更でやむを得ず場所を変えたい場合は、ビル側にその旨申し出てビルの指定管理防災業者に工事を依頼する必要が出てきます。これは手間もかかるのですが、ビル全体の防災システムと連動していますし、また工事費も言い値になりますのでお金がかかります。タワーマンションで住戸内にスプリンクラーが設置されている場合など、変更に100万円単位で費用がかかることもありますので、できるだけ動かさないことをお勧めします。

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こうして見てみると、マンションの住戸改修では、設備工事について制約が多いことがわかります。計画上、間取り変更は比較的容易なのですが、水廻りの位置変更については特に注意をされてください。事前にマンションの管理事務所で図面を入手することができますが、住戸計画の図面がない場合や、建築時の図面の保管がずさんな場合などもあり、この作業とともに事前に現場調査に入る必要があります。改修を設計事務所にお願いすれば、こうした調査について設計事務所で行いますので、建主さんはご安心いただければと思います。ただ、こうした調査を事前にきちんとしてくれるかどうかは、設計事務所に確認されてください。事前の調査を行なっていても工事が始まって解体してみて初めてわかることなどあり、現場での多少の変更も想定しておかれるのが良いと思います。しかし設計事務所によっては、変更ありきで事前調査を怠ったり、いかようにも変更可能な程度の図面しか描かない、現場がはじまってどんどんプラン変更してしまうということもありますので。

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因みに今回の計画、僕の事務所では設計段階で事前に10回近く現場に足を運びました。マンションの管理事務所に建築図面はあったのですが、図面の保管場所が2ヶ所あり、欲しい詳細な図面に辿り着くまで手間を要したこと、また住戸図面は無かったため、現場調査、採寸作業を繰り返したことが挙げられます。それでも解体工事が始まって、やっと分かった配管のルートなどあり、軽微ではありますが現場での変更が必要になりましたので、設計でも変更の可能性を想定した箇所を洗い出しておく必要がありました。

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以上のようなことに注意をして設計を進めていけば、こんなはずではなかったというような現場に入ってからの間取りの大幅な変更や別途工事の支払いなどが出ないと思います。もちろん既存の住戸をリフォームするだけなら問題も少ないのですが、間取り変更を含め住戸内を改修される場合は、マンションリノベーションに慣れた設計事務所や工務店にお願いされることをお勧めします。

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