僕の事務所で設計監理した『幕張のマンションリノベーション2』が完成しました4 -住宅を視覚的、空間的にまとめ上げる方法-

こんにちは。

僕が大学生の頃、何の授業だったか定かでありませんが、TVドラマなどで例えば魔法が使えるなど奇想天外な設定についてクレームが入ることはないけれど、食卓のシーンの俳優の箸の持ち方が悪いと抗議されるという話がありました。こんなことを思い出したのは、先日ネットの何かの記事で、最近では殺人シーンではクレームが来ないのに、喫煙シーンが抗議の対象になるというのを読んで、なるほど自分の生活と地続きの慣習や倫理・道徳、文化や教養について人はセンシティブになるんだなあと納得したからでした。

建築の設計でも、こうしたドラマと同様、大きなフレームによるトップダウンが建築の骨子となり住まい手に夢を与えると共に、日常生活を拾い上げてボトムアップさせていくことで住まい手を住空間に着地させるのだと妙に納得して、設計者としてそうした複眼的な視点を持つことを改めて自覚したのでした。

さて過去3回に渡りブログで紹介してきた『幕張のマンションリノベーション2』ですが、今回はその4回目、「住宅を視覚的、空間的にまとめ上げる方法」について書きたいと思います。

2022.07.15 佐藤様邸マンションリノベーション 内観写真-59.jpg

住宅やマンション住戸の新築、フルリノベーションの場合、設計者は、全体を包括的にまとめ上げるということを考えます。これは主に形態、空間、また視覚だったりディティールだったりします。まとめ上げるというのは、統一感を持たせるということですが、設計者は、建築を俯瞰的に眺めて全体を見渡すことに慣れているのでそのように考えることが多いのではないかと思います。また、建築は総体として完成を見るものでもあるため、全体の統合というのは、設計者にとって大事なことでもあるのです。

2022.07.15 佐藤様邸マンションリノベーション 内観写真-70.jpg

一方で、建主さんによっては、建築の部分、各部屋や建築の一箇所をこんなイメージにしたいということもよくあることです。「この部屋はインドネシアのリゾート風にしたい」とか「ここはフランスの田舎風に」など。こうしたご依頼は、デザインイメージをはっきり打ち出している設計者にはあまり来ない相談ですが、それでも建築の部分、一部屋、コーナー空間などに異なるイメージをご要望されるということはあるかと思います。これは、建主さんが身体の延長として生活シーンをイメージされるからであり、それは時に空間的には小さなまとまりになるのです。

2022.07.15 佐藤様邸マンションリノベーション 内観写真-80.jpg

例えば部屋ごとに全て異なる壁紙を使いたいといった場合でも建築的なフレームの作り方で全体をまとめることは可能です。各部屋、各シーンごとに異なる仕様にしながらそれらをどう繋ぐかによって視覚的なシークエンスを統合するのも設計の手腕の見せ所だと思います。ピーター・グリーナウェイの映画のように異なる部屋が舞台の書割のように登場しながらその連続を映画という全体によってまとめるようなことを建築でも実践できるのです。

2022.07.15 佐藤様邸マンションリノベーション 内観写真-107.jpg

レム・コールハースという建築家がオランダに設計した住宅は、上下三層になっており、地下は洞窟のような建築、二層目はガラス張りで屋外と繋がっているようで、最上階はモダンな箱というようにイメージの異なる各階を大きなリフトが縦に繋ぐというものです。これは、近代の一つの発明であるエレベーターが全く異なる各フロア、各室に直接繋がってしまうという事実をレム・コールハースが「発見」したことを転用したもので、このリフトによる各空間の統合が建築を一体のものとしてまとめ上げています。

2022.07.15 佐藤様邸マンションリノベーション 内観写真-121.jpg

いずれにせよ、またどのような設計手法を用いたとしても建築を総体としてまとめるというのは、建築自体美しくもあり、多くの設計者は、このような建築的統合を試みます。『幕張のマンションリノベーション2』の場合「場所によって壁の色を塗り分けたい、子供部屋は特別なイメージで作りたい」という建主さんのご要望がありました。今回は建主さん自ら壁の塗装をされたのですが、壁を塗る直前までどのような色になるのか確定しなかったこともあり、各室と各室間のつながりについて仕上げをイメージできないまま設計を進める必要がありました。僕は、場所によって壁や床の素材、色が異なるというのを想定しながら、最終的に各部が自立して全体としてパッチワークになってしまうことは避けたいなと考えました。そこで建築全体をまとめるルールとして、天井のみ同一の仕様とすることにしました。床から高さ2mまでは、建主さんのお好きな仕上げをしてもらい、それより上については、住戸内どの場所もグレーのクロス貼りとしました。高さ2mというのは、マンションの構造梁の下端から導き出した寸法です。また、今回玄関からそのままDENに繋がるように設計していますが、玄関とDENをなんとなく分節するように欄間のようなものを設けてほしいというご要望があり、それならばこの欄間のような天井仕切りによって各室だったり異なる空間だったりを柔らかく分節しようと考えました。結果的に床から高さ2mで見切りを入れてそれより上を同一素材、色とすると共に各室、空間的境界について勾配のある垂れ壁を設けてなんとなく全体がまとまっていて、またなんとなく各部が分節されている空間統合を実現しました。

2022.07.15 佐藤様邸マンションリノベーション 内観写真-129.jpg

建主さんは、非常にご趣味が良かったので最終的にはどこも非常に美しい壁に仕上がりましたが、それでもこうした天井の操作によって床や壁の自由は、全体に包摂されたと思っています。マンションのフルリノベーションなどで、全てを同一素材や色にしたり、また住戸をワンルームのような一つのヴォイドと見立てて家具的、装置的な手法で空間分節するというやり方の他にも、いろいろな手法を用いて全体の統合を実現することは可能であり、時には異端な部分が入り込んでしまっても何かしらのやり方で解決に導くこともできるのだと思います。今回、できてしまえば違和感を感じることのない空間ですが、そう見せることができるのが設計の腕の見せ所かもしれません。上記したような設計をできた自分にご褒美をあげたいくらいです。やるな、僕。

2022.07.15 佐藤様邸マンションリノベーション 内観写真-136.jpg