studio ai architectsが設計監理した流山おおたかの森にあるレストランバーの完成写真

こんにちは。

2ヶ月前のことになります。5月の半ばにレストランバー『RETRO』の完成写真を撮影しに千葉県流山市、おおたかの森まで行ってきました。

おおたかの森は、つくばエクスプレス「流山おおたかの森」駅を中心に作られた完全人工郊外型街区です。大型ショッピングモールなどの商業施設と高層マンションがコンパクトに計画されており、都心への乗り入れも便利なため、現在話題の街になっています。

2003年から開発の始まった非常に若い街ですが、住民の定住率も高く、『流山がすごい』(大西康之著 新潮新書)などの効果もあり、現在進行形で話題の街になっています。

街を歩いていると、現在も建設中の建築が多くあり、また洒落た飲食店などの店舗が点在しています。レストランバー『RETRO』も街の中心街から少し離れた閑静な場所の比較的新しいビルの中に入っています。食とお酒をカジュアルながらも少しだけお洒落して楽しみたい、店内も日常から離れたハイデザインの中にどこか居心地の良さを感じる、そんな作りになっていました。

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『RETRO』を設計監理されたのは、「studio ai architects」の塚原信行さんです。塚原さんは、日本の大学を卒業後単身アメリカへ渡り、 日本では東京国際展示場の建築設計で知られるニューヨークの「rafael vinoly architect」で実績を積みました。その後同事務所のメンバーと「studio ai architects」を設立、2019年に日本にも事務所を構え、その代表となりました。

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塚原さんが今回設計された『RETRO』は、グラフィックデザイナーである奥様との協働によるものです。細部まで行き届いたデザインが、店舗全体の統一感を生んでしました。

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店内は、厨房をコアにしてL字型の空間構成がされています。エントランスをくぐるとバーになっていて、厨房を背景にバーカウンターがあり、これに合わせた天板の高い大きなテーブルが配され、ハイクオリティなインテリア、でもどこか気軽で親しみやすい空間になっています。

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バー空間を抜けて右手は、テーブル席になります。窓辺の比較的外部に対して開放的な空間で、どことなく地中海風の雰囲気もあります。バーから続く床のタイルは、イタリアから直輸入したものだそうで、大柄のパターンながらもコントラストの低い色味のためか、優しく極端に主張することなくインテリアに馴染んでいました。テーブルは、塚原さんが設計されたもので、可変による組み合わせで大きな長テーブルにもなり、ランチミーティングや大人数の会食などにも良さそうです。

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バー空間の奥、左手に広がるのは、厨房に面したダイニングカウンターとソファ席です。穴蔵のようなシックで落ち着いた雰囲気の空間になります。ダイニングカウンターは、タイル張りで高級感があり、またソファ席の家具も組み合わせでさまざまな客席レイアウトが可能でした。

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3つのゾーンは、それぞれ趣向が異なりますが、ルーズに繋がりながら店舗全体を統一してもいました。一つにはスケルトン天井による店舗全体の統一があると思います。また、バー右手と奥左手の空間が構成的にバーから見えすぎず、窓越しに見るテラスのような感じで空間を分節しながらつなげてもいるように思います。

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3つのゾーンに配されるテーブルを主とした家具類は、全て塚原さん設計によるものです。これらは、ラグジュアリーなインテリアに対して、幾分粗野に作られて空間に対して適度なスパイスとして作用しています。スチールのフレームで組まれたテーブルは、繊細なラインと無垢天板の荒々しさとの対比が絶妙であり、制作上コストを下げる工夫がそのままフレームデザインとなっているのも印象的でした。これらは組み合わせ方でさまざまな空間レイアウトを可能にしていて、しっかりとしたシミュレーションによって計画されたことがうかがい知れます。家具の幾らかについては、販売も視野に入れられているとのことで、プロダクトとして商品化されるのが待たれます。

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さて、店舗空間の撮影の難しさは、人工照明を含んだインテリアということに尽きます。空間を撮影するのはもちろんですが、人工照明の入った空間は、実際に営業中の雰囲気であり来客が感じる店舗のイメージを壊すことなく、これを写真にトレースすることを心がけています。

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撮影当日は、HP用の写真撮影の写真家も入られていたため、お互い逃げながらの撮影になりました。ここからのシーンをもう一枚撮りたかったというのがなかったわけではありませんが、それでも撮影にたっぷり時間をいただいて、総じて良い写真を撮ることができたように思います。写真をご依頼くださった方が喜んでくださるのは僕にとってとても嬉しいことです。しかしいつも僕が思うこと、そしてご依頼くださった方にお伝えするのは、作品が良いからです、ということです。僕の建築写真は、作家としての作品ではありません。あくまで建築作品をいかにそれが纏う空気までもをトレースするかということなのです。

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ですから僕の撮影した写真が良かったのであれば、それは、設計された作品が素晴らしいのだと、ご自身を褒めていただければと思っています。塚原さん、この度は素晴らしい撮影経験を積ませていただきました。この場をお借りして、お礼申しあげます。

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