僕らの設計した最も新しい住宅が完成し、『モンタージュ2』と名付けました。この母娘の住む千葉里山の住宅について、「引用」というテーマで設計の根拠を記述したのですが、これについて僕の出身大学の尊敬する大先輩からコメントをいただきました。それは、『建築と日常 No.3-4合併号 特集:現在する歴史』を読んで、建築と「引用」、あるいは建築における「引用」について掘り下げてみてはどうかというものでした。
というわけで、今回は、このことについて書いてみたいと思います。
いつものように思考のスイッチを切り替えるのに、文体を変えて書きます。
2015年1月17日土曜日、武蔵野美術大学建築学科の卒業制作講評会が行われました。
これは、専任の先生方、非常勤講師が一同にそろって、卒業制作全作品について採点を行い、受賞者を決定するというものです。
午前中に審査員による全作品についての入点が行われ、上位上限12名が選考されます。午後、選ばれた学生によるプレゼンテーション、質疑応答、審査員によるディスカッションを経て各賞が決まります。
昨年僕は、学生作品を相対化してあるひとつの評価基準を設けました。それが「社会的包摂」です。今回は基本的なスタンスを変えずに一歩踏み込んだ論の構築を試みたいと考えています。
思考を出来るだけクリアにして論を展開するため、以下文体を変えて記載いたします。
2014年1月18日土曜日、武蔵野美術大学建築学科の卒業制作講評会が行われました。
これは、専任の先生方、非常勤講師が一同にそろって、卒業制作全作品について採点を行い、受賞者を決定するというものです。
午前中に審査員による全作品についての入点が行われ、上位上限12名が選考されます。午後、選ばれた学生によるプレゼンテーション、質疑応答、審査員によるディスカッションを経て各賞が決まります。
ここでは、こうした選考を経験して僕が考えたことを記しておきたいと思います。それは、選考基準だとか、各作品についての評価コメントだとかではなくて、もう少し抽象度の高い思考、多くの学生作品から見えてきたものについて論じてみたいということです。
ロラン・バルト「テクスト」理論とは、読者は作品を作者から切り離してこれに対峙し、さまざまな要素によって織り上げられたテクストを能動的かつ創造的に、多様に読むことを許す、というものでした。
これは、極めてポストモダン的な思考といえます。西欧形而上学における表層から深層への一方向性と、その最深部には真理があるという考え方への批判的批評によるものだからです。作品をつくるということは無からの創造であり、創造主である作者にこそ審級がある、読解とは、作品を通じて作者=審級=真理に触れる作業であり、その意味において読者は受動的な観客である、ということに対する批判。
つまりツリーモデルの解体を行っているのですが、この点で「テクスト」理論は、以前本ブログで紹介しました東浩紀「データベース消費」と同義であるといえます。
僕らは、作品を鑑賞し、あるいは批評するとき、しばしば作品の根拠を「作者」に求めようとします。「作者」の思考において、「作者」の性格において、「作者」の原体験において、というように。
例えばゴッホの絵画を彼の狂気に、ピカソについて彼の性愛に、シャガールであれば彼の無垢な愛に作品の根拠を見いだす、つまり作者の意図を正確に読み込むという受動的な作業を通じて、作品を理解しようとしているのです。
ロラン・バルト(1915〜1980)は、『物語の構造分析』に収録されている「作者の死」の中で、そのような作者の打ち明け話を批判した上で、作品の根拠を作品それ自体に求めることで「読者が主体的に作品を創造する」ことの重要性を説いています。こうした考えを「テクスト理論」といいます。
内田樹著『寝ながら学べる構造主義』(文春新書 2002)を教科書に、「テクスト」理論について理解したいと思います。
『新世紀エヴァンゲリオン』(1995-1996)日本のTVアニメ。原作はGAINAX。監督は庵野秀明。
『日本ではその(大きな物語の)弱体化は、高度経済成長と「政治の季節」が終わり、石油ショックと連合赤軍事件を経た七〇年代に加速した。』
(以上『動物化するポストモダン』より引用)
東浩紀は、「単一の大きな社会的規範が有効性を失い、無数の小さな規範の林立に取って替わられるというその過程」を上記し、また思想史レベルでもこの過程について触れています。
「十八世紀末より二十世紀半ばまで、近代国家では、成員をひとつにまとめあげるためのさまざまなシステムが整備され、その働きを前提として社会が運営されてきた。そのシステムはたとえば、思想的には人間や理性の理念として、政治的には国民国家や革命のイデオロギーとして、経済的には生産の優位として現れてきた。」
(以上『動物化するポストモダン』より引用)
東浩紀は、この単一の社会規範、こうしたシステムの総称を「大きな物語」と言っています。
ツリーモデルとは、「大きな物語」を円滑に機能させるためのトップダウン状の樹形の体系といえます。
モデルとは、ものごとを説明するための枠組みです。
ブログタイトルの「ボクらはなにを選んだ?」は、ASIAN KUNG-FU GENERATIONに敬意を表して、彼らのアルバム「ランドマーク」に収録されている「1980」の歌詞の一節、「右の手にペンを持って僕らは何を選んだ?」から決定しています。
千葉県千葉市で「Smart Running一級建築士事務所」を主催しているkoizumikazuhitoです。建築設計の他、個人で建築写真を撮影する「Sma-Photo」の活動も行なっています。
アート系のカルチャーや現代思想に興味を持ち、またアウトドアではキャンプをしています。
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略歴
千葉県生まれ
2003 Smart Running一級建築士事務所設立
教職
2008〜2017 武蔵野美術大学造形学部建築学科非常勤講師
2014〜 東京造形大学デザイン学科室内建築専攻領域非常勤講師
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事務所HPはこちら
Smart Running一級建築士事務所:http://smart-running.net/
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事務所Instagramはこちら
smartrunning.2003:https://www.instagram.com/smartrunning.2003/